皆さんは「定石」という言葉を聞いてどういう印象を抱きますか?
好きでしょうか?嫌いでしょうか?
得意でしょうか?苦手でしょうか?
今回は、定石に興味がある人に知っておいてもらいたい定石の前提のお話をしていきます。
定石とはなんぞや
まずは、定石の定義から行きましょう。
さすが広辞苑(第七版)ですね。過不足なく端的に述べられてます。
せっかくだから他の辞書の定義も見てみましょう。
これは酷いですね。デジタル大辞泉のものですが、「部分的に」という文言が抜けています。
「部分的に」という用語は絶対に抜いてはいけないものです。
このお話は後の章で具体的に出てくるので、詳しくはそっちに譲ります。
定石は暗記では身につかない
せっかくだから定石を1つ取り上げてみましょう。
星に小ゲイマでカカリを打って、ハサミを打たれたときの定石の1つです。
さあ、あなたはこれをどのようにして、実戦で使えるようにしますか?
手順をそのまま暗記しますか?
最初のうちはそれでもよいかもしれません。でも必ずつまずくことになります。
例えばこういうパターンですね。
これは適切に咎めれば明らかな悪手になるのですが……、
このようになってしまうと、定石形よりも黒が損です。
また定石形に類似している変化としてはこのような変化もあります。
これと先に挙げた定石形との違いはなんでしょうか?
この認識が中盤以降に響くことになります。
以前布石のお話で取り上げましたが……
序盤の影響は中盤以降にも及ぶものです。それはこういった定石1つの認識でも出てくるところです。
こういったものを一つ一つ押さえる必要があるのですが、可能な限り覚えるべきことは必要最低限にすべきであり、全て丸暗記というのは効率が悪いのです。
定石選択は部分と全体で判断すべし
※問題部分は有段者向けなので、級位者の方は無理に解かずに「こういう思考なんだー。へぇー」くらいでよむことをオススメします。
私の実戦を取り上げるのは恥ずかしいのですが、ちょうど良い例だと思うので取り上げます。
黒番です。ここで私は右下に向かったのですが、どういう定石を想定したでしょうか?
まず実戦はこちらです。
黒9までの定石は陣地が増えないので、個人的に嫌いな定石の1つなのですが、今回は選択しました。右辺の黒をサバき、中央に白地がほとんどつかなければ上辺の黒地で十分足りるだろう、という想定通りの展開です。
続いて実戦として出現しなかった変化について言及します。
ツケヒキ定石は一番選びたくありません。中央が白の有利な領域なので、白6などと広めにヒラキを打たれ、黒は打ち込みを打たざるを得なくなり、危険をおかすことになります。
そのためハサミを優先的に考慮したいのですが、黒1の二間高バサミはあまり良い感じがしません。白2で普通にトビを打たれて乱戦にされるのも嫌ですが、白2以下白18まで地を稼がれて黒の厚みを攻められるのも良くありません。
そこで黒1がFirst choiceになるのですが、白2が左上の白の一団と連携する良い手で、黒5などと打ってしまうと白6などとヒラキを打たれ、ツケヒキ定石を打ったときと大して変わらない展開になります。
そこで、黒5では上辺からヒラキを打つ予定でした。右下はやや損することになるのですが、それ以上の利益が収支で得られると判断しての手です。
以上の判断は、石同士が連携することの価値を大きく見ての判断です。左上も左下も地としては小さいのですが、勢力として連携されると厄介です。だからこその右下の定石判断です。
さて、前置きはこれくらいにしておきましょう。
ここで述べたいことは、右下で正しく定石判断することではありません。
この図の白2の分岐を考慮したでしょうか?
「白2,4の進行は部分的に甘い」から、選択肢として捨てていませんか?
特に、定石を中途半端に知っている人にこういう傾向があります。
ここで最初に述べたあの話が戻ってきます。
あくまで「部分的」だと強調した通りです。
定石を正しく選択するには、全体の評価×定石の評価(部分の評価)が必要です。
問題として出題した上記の例を読んだ方なら、納得いただけますよね。
さらにもう一つ着目して欲しいことがあります。
定石書にはさっき挙げた形ではなく、このような形で載っていることがほとんどではないかと思います。
それゆえに、白2,4の評価=これらの形の評価として誤認していませんか?
そして、このようなある種の定石外しに対して対応できなくなっていませんか?
今回のように、場面によっては手抜き(手順の途中で別のところに打つこと)も考えられるわけです。こういう手抜きのタイミングを正しく把握するためにも、(定石の途中で出てくる)一手一手の効果を正しく認識する必要があります。
まとめ
では、最後に今回の内容をまとめましょう。
1. 定石は部分のお話
2. 定石選択には、全体の評価×定石の評価(部分の評価)が必要
3. 定石に出てくる一手一手の効果を把握することが大切
これらが上手く重なり合えば、きっちり効果を発揮して、定石は必ずあなたの味方になってくれます。
ということで、今回は定石を学ぶ上での前提のお話をさせていただきました。
一つ一つの定石に関しては、内容量が多いので、今後ゆっくりと触れていきたいと思います。