棋書(囲碁の本)の扱い方(2018年版―囲碁AI関連本について―)

『棋書(囲碁の本)の扱い方(2016年版)』(以下「前作」と称します)を出して、1年半が経ちました。

独学する上で、必須となるのが棋書(囲碁の本)です。 とはいえ、どのように棋書を扱えば良いのか分からない人も数多くいるでしょうから、...

あの内容は色んな人に役に立ってるようで、ライターとしては嬉しい限りです。

その一方で、新しいヴァージョンを出しませんか?というお話を時々いただくようになりました。

個人的には(絶版時期を踏まえて)3年ぐらい経ってから書こうと思っていました。

しかし、人を超える囲碁AI(コンピュータ囲碁)の登場により、囲碁の中身も相当変化して、囲碁の中身に対してどのように触れていけば良いのかを迷う方も増えたのではないか、と肌で感じるようになりました。

このことを踏まえて、個人的な見解も含めた上で、向こう数年間囲碁の本とどのように付き合っていくべきかに関してお話ししていきたいと思います。

なお、個人的な見解がある程度強いモノですので、その点を承知した上で以下をご覧ください。

囲碁AI関連の本は有用なのか?

前作時点との一番変わった点は、囲碁AI関連の本が劇的に増えた点です。おそらく今後も囲碁AIをパッケージに掲げた本は出てくると思います。

一方で、囲碁AIがどんどん引退しています。

AlphaGoは2017年5月に引退しました。

日本産のZenを母体としたDeepZenGoも2018年4月に引退試合を行いました(Zenの元の開発体制に戻ったそうですが)。

そのため、囲碁AIネタを元にした本は、(新たな進展がない限り)徐々に下火になっていくのではないかと予想します。

さて、背景ばかりをお話ししても仕方がないので、中身の話に移行します。

囲碁AI関連の本は、はっきり言って質が悪いものが多いです(良くなり得ないというニュアンスも含めて)。

その要因となるポイントは2つです。

①要求される前提知識(理解)の量が半端ない
②囲碁の理解がそれほど進んでいない

本という形にする以上、ページ数の制限があります。そのため、説明すべき場所を割愛せざるを得ない側面があります。

理解のために、極端な例を挙げてみましょう。

アキ三角が悪形であることについて、アマ高段者にとっては自明の事柄です。なので、アマ高段者向けの本において、そのことをわざわざ事細かに提示することは蛇足になってしまいます。

囲碁AIの内容は高度な内容になりがちです。そのため、省略する事柄が(どんなに抵抗しても)多くなりがちです。

※どんなに初心者向けに解説しようとしても、絶対に説明不足になります。本という枠組みに入れている限り、これは避けられない事象です。

もう一つの問題は、作者の能力の問題です。囲碁の中身をどこまで「言葉」にできるかという問題です。

実際、囲碁AIは過程をすっ飛ばして、結果のみを私たちの前に提示します。なので、その過程については人間が読み解くしかありません。

(残念ながら)囲碁AIの台頭以前と比較して、人の囲碁の解釈能力はそれほど変わっていません。

結局は、囲碁AIがあろうとなかろうとそれほど内容に変わりがないとも言えるわけです。

※もちろん、新手はいくつかありますが、経緯説明とは関係なく昔から存在する手を紹介している本もあるくらい、質が悪いです。(わざわざ具体例を挙げることはしませんが)

※加えて言うなら、昔から人間はミクロに強い一方でマクロに対して弱い側面を有しています。そしてこの点の解説はほとんど変化がないのです。

……ということで、囲碁AIの本に関しては、以下のような前提を持っていることが望ましいです。

①自分の囲碁のレベルが、囲碁の基本が理解できているレベルであること
②現状の解釈がどういう理由に基づくものなのか、を理解すること
③現状の解釈を疑い、自身の頭の中に落とし込むこと
要は、本の解釈を参考に、自分で解釈できれば、読んでも問題ないと思います。
なお、①のレベルの参考は、『苑田流格言のすべて』が理解できるレベル以上が望ましいでしょう。

※もちろん、ベースがそれほどなくてもある程度一般書を読みこなせる人なら大丈夫だとは思いますが…。

囲碁AI本のおすすめ

その上で、推奨する本を挙げるとすれば、この2冊を挙げます。

前者の方が幅広い読者層を想定しているため、比較的読みやすいと思います。

一方、後者は三々のお話を軸にしている、専門性が高い本です。特に昨今の変化の中で、三々に関する考え方(捉え方)が最も変化が大きいため、この本をオススメします。(とはいえ、2章の三々に関しては昔とあまり変わりがないのですが……)

なお、前者については以前書評を書いているので、そちらも参考にすると良いかも知れません。

大橋拓文著『よくわかる囲碁AI大全』を読了しましたので、書評および考察を以下に記述します。 一言で言う...

まとめ

囲碁の理解がこれからどの程度深く進むかは分かりませんが、

深くなればなるほど、前提が見過ごされがちな展開になっていくでしょう。

そういった内容を「言語化」することがどの程度できるか、がポイントになりますが、なかなか上手くいかないと予想します(勝手な予想ですが)。

なので、囲碁の本を有効活用したい、と思うならば、

①文字を読み慣れること

②対象本のレベルを理解すること

一般書にも慣れない人が囲碁の本を読むのは非常に危険な行為になっていくでしょう。

囲碁AIの特徴を踏まえると、特に「手」よりも「解釈」が重要になっていく時代に変化していきます。解釈を読み取るには、日本語が正確に読めないと無理です。

それを考慮すると、文字慣れすることは必須事項と言えるでしょう。

また、本当に自分のレベルに合っているかどうか、が以前より大切になります。

販売元が明記してくれていることがあるかもしれませんが、それでもなお自身で確認する必要があります。

解釈の重要性が増す、ということは、裏を返せば解釈で混乱しやすい状況です。

棋書のレベルが読み取れない状態で手を出すと、簡単に過去の本との摩擦が生じるでしょう。

一つ一つ明記しませんが、正直囲碁AI本で戦術モノの本を「級位者向け」と表記することは間違いだと思います。上述した『アルファ碁流三々戦法』もそれなりに棋書を読んで理解している「級位者」なら構わないといます。しかし読書量が少ない状態で読むことは相当リスキーだと言えます。

以上を踏まえて、囲碁の本と上手く付き合い、自身の身になる投資をしていきましょう。