「検討」、「感想戦」、様々な言葉で表現されますが、囲碁や将棋などで行われる対局者同士の反省会があります。

動画の方は16分30秒あたりから見てもらうと、いかにこの文化が非一般的なものなのかが分かります。

この「検討」にて同じくらいの棋力だと「ああじゃないか、こうじゃないか」で話しやすいと思います。

しかし、棋力差があると教えたいけどどう伝えれば良いのか分からない、という事例が碁会所にてちらほら見かけます。言い過ぎても混乱するだろうし、でも伝えられることは伝えたい。そんな葛藤もあるようです。

そこで今回は、検討にてどのように伝えれば良いのか、というのを実際の事例を通して見てみましょう。

 

 

事例提示

 

筆者の白番、13路4子局でした。(以後対局相手をAくんと表記します。Aくんは年下の知り合いです)

※なお、ここから会話形式でお話を進めますが、会話は一部改変しております。

 

 

 

 

 

 

局後、「検討やりますか?」「やります」ということで、検討することになりました。

 

さて、まず一言目私はなにを言ったでしょうか?

 

 

 

 

 

 

私:「この一局どうだった?

A:「(上辺を指して)ここ死ぬのを見逃していて、白39のコスミに受ければ良かったなぁ、と思いました。(左辺を指して)ここの陣地を確保すれば勝ちかと思ってたんですけど。」

 

……さて、もうすでに私は頭の中フル回転になってます。

受けなくても死なないはずだからです。これは局中にみられた「違和感ある」手のヒントかもしれません。

 

私:「じゃあ、最初から並べ直してみようか」

 

(中略:ここまでの手に関して私のミスも含めて軽く解説)

 

 

 

私:「さて問題の場面だね。確認なんだけど、(上辺を指して)ここに対してどういう判断なんだっけ?」

A:「死んでしまうので、コスミに受けるべきだったという判断です」

 

 

私:「本当に死んでる?」

A:「二眼がないから死んでると思うんです。」

 

 

私:「一般化するけど、生きてる石ってどんな石?」

A:「二眼があれば生きてます」

 

私:「これって二眼ある?(左下の白石を指して)」

A:「二眼作れると思います。スペースが広いので」

 

私:「うん、二眼がある、というより、二眼が作れる石が取られないよね」

私:「なら一眼以下の石は全部死んでるの?」

 

ここで、う~ん、とAくんは考え込んでしまいました。

大枠の概念としてもとらえられていなくて、かつ具体例が浮かばないようです。

 

私:「じゃあ、ちょっと別の視点で見てみようか。攻め合いってどうなれば勝てる?

A:「ダメの数が多い方が勝ちです」

 

私:「それっていちいち数えなくちゃ駄目かな?ダメだけにwww 確かに数えれば分かるかも知れないけど。」

A:「でも、確実ですよね」

私:「うん、確実かもしれない。でも大会とかで時間に追われていたらどうかな?それって正確に数えられる?」

A:「あ、ちょっと難しいかも知れません。」

私:「そうだよね。例えばさ、胃がんを見つけるのに、全員が全員、胃カメラをやる?」

Aくんは首をふりました。

私:「やりたくないよね。血液検査とか簡単な検査で胃がん疑いになってから、胃カメラをやった方が良いよね」

私:「で、本格的な検査の前の簡単な検査を『スクリーニング』って言うんだけど……」

私:「攻め合いってスクリーニングできないかな?キーワードを一つ思い浮かべて欲しいんだけど」

A:「中手じゃないしなぁ~…………。浮かばないです」

(※ここで実際はキーワードを考えるのに少し時間を費やしてもらいました。)

 

 

私:「『眼あり眼なし』って聞いたことある?」

A:「あ~、(名前だけ)聞いたことあります」

 

私:「意味知ってる?」

A:「あんまり…知らないです」

私:「じゃあ、例えば….(並べながら)これって上辺はどっちが攻め合い勝ってるだろう?黒は眼があるけど、白は眼がないよね。」

 

A:「う~ん、分からないです」

私:「実際に埋めてみよっか」

 

 

私:「どうやら黒の勝ちだね」

A:「おお~」

私:「眼がある方と眼がない方だと、眼がある方が勝ちやすいんだ。どうしてだと思う?」

A:「え?どうしてだろう?」

私:「じゃあ、実際にもう一回並べてみるね」

 

 

 

 

 

 

A:「あ、分かった。黒は外から打ってるけど、白は内側に打ってるから」

私:「そうそう。基本的に攻め合いは外側からダメ(外ダメ)を詰めるんだけど……」

私:「最終的に内側のダメ(内ダメ)を詰めに行ったとき、眼があればダメが詰まった瞬間に取られないんだよね。」

私:「つまり、この状態でこの攻め合いは黒勝ちってことなんだよね」

 

 

 

A:「へぇ~、ちょっともう一回並べてみて良いですか?」

私は頷いて、Aくんは並べ始めました。

 

 

 

 

 

A:「ああ、確かに」

 

 

 

私:「じゃあ、この場合(一眼vs一眼の場合)はどうだろう?実際に埋めてみようか」

 

私:「まず外側から埋めていって、最後に内側を埋めていくと…」

A:「あ、セキですね」

私:「そうだね。外ダメの数と内ダメの数が同じくらいだったら、この状態(上図の状態)でセキってわけだ。実際埋めた感じだと結構余裕があるから、このタイミングで黒は外ダメをすぐに埋めに行かずとも構わないね」

私:「この状態でも、この状態でもセキだからね」

 

A:「ああ、なるほど」

 

私:「ということで、まとめると……」

 

 

①二眼が作れるスペースがあれば生きてる

②攻め合いは外ダメから

③攻め合いのスクリーニングは「眼あり眼なし」

 

 

私:「OK?」

A:「オッケーです」

 

 

 

 

 

以上が事例でした。

 

 

 

事例に見るポイント

 

さあ、このお話のポイントはどこでしょう?

 

 

 

 

 

 

ポイントはこの3つです。

 

 

①「元々の意図」と「現在の評価」を確認し、問題点を抽出する

②優先順位をつけて根っこの問題に着手する

③最後に簡潔にまとめられるようにする

 

 

 

では一つ一つ見ていきましょう。

 

 

①「元々の意図」と「現在の評価」を確認し、問題点を抽出する

 

問題点のマクロ的な配置として、「意図と評価が合ってない」「現在の評価が不適切」「意図が不適切」の3パターンが主に考えられます。なので、「元々(局中)の意図」と「現在(局後)の評価」を確認し、問題がどこにあるのかを確認する必要があります。

噛み合わないものがあれば、それが噛み合わない原因を探る必要がありますし、意図や評価が不適切ならその意図や評価が出てきた理由を引き出す必要があります。

 

今回提示した事例では、最初の質問で意図と評価を抽出できてます。

元々の意図:「左辺が大事だから左辺の境界線をきっちり定めた(上辺の大石は生きている)」

現在の評価:「上辺の大石は手抜くと死ぬので、手抜くべきではなかった」

 

しかし、問題は「上辺の大石はなぜ死んでいると判断したのか?」というところです。

なので、これは根っこのところを掴む必要があります。(②に続く)

 

最初、あえてOpen Questionを選択するのは、筆者の流儀です。どの程度自分のことを話せる人なのか?つまり、会話中に質問してどの程度答えられると想定できるのか、を定めるためにこの質問方法を選択することが多いです。

こういう質問に答えられない場合は、単純に語彙力や話慣れの問題なのか、それともなにがおかしかったのか分からないからなのか、について吟味してます。

 

あと、検討の際には、並べ直すことが多いのですが、下手が一緒に並べられるか(覚えているかどうか)確認を取ることは必須です(※なお先の事例ではこの部分を割愛しました)

並べられない場合も考慮して、上手側が自分一人で手順を再現できることが望ましいです。

 

 

②優先順位をつけて根っこの問題に着手する

 

今回は、問題点が一つなので優先順位をつける必要がない事例……というより、最初から優先順位の高い問題がでてきたため、積極的に優先した事例でした。

 

その上で、問題点を深く掘り下げて、一番修正すべきものを修正することになります。

ここは教える側の「腕の見せ所」であり、教える側の棋力と能力に依存するところです。

 

今回の事例では、問題点がどこまで深いのかを調べるのに、それなりの会話リソースを費やしました。

その甲斐もあり、「攻め合い」に不安があること(特に長手数のもの)が分かりました。

 

「攻め合い」を一つ一つ読むのもありですが、ヨミに不安がないタイプの人ではないだろう、ということで、今回はスクリーニングのお話に持っていくことにしました。

 

「攻め合い」についてもっと詳しいお話をすることも可能です。しかし、実際に上述の会話を読んで「結構長いなぁ」と思った方がほとんどではないでしょうか?

実際には口語でこのくらいの長さだと、「一仕事終わったー」というレベルですね。実際この後、Aくんは大仕事をやりきった感じでした。

その中で、さらに詳しいお話をしたら、とても耐えられる内容ではなかったでしょう。

 

つまり、実際の口伝えで伝えられる内容は「非常に限られた内容」であり、どんなに長い内容であっても「簡潔」にすることが求められるわけです。(③の内容とかぶりますが)

この「非常に限られた内容」というのが重要で、口頭で教わった内容が総てだと勘違いなさる方を時々見かけます。

無理です。そこまできっちりやるなら半日くらいの時間は欲しくなります。

理由のところをきっちり掘り下げたり、応用について触れたりしたら、とめどなくお話できるでしょう(←特に筆者の場合)

 

なので、筆者の場合は、実際に利用価値が高いところ(実戦的なところ)にフォーカスを絞ってます。

そして、次に似たようなものに遭遇したとき、「この経験を思いだそう」と思えるような内容にしてます(例えうろ覚えの状態になっていたとしても)。

 

 

 

 

③最後に簡潔にまとめられるようにする

 

これは根っこの問題に着手できているか否かが関わってくるところです。

今回の事例では、石を取るか、石が取られるか、という「攻め合い」のお話だったので、それを軸にまとめることができました。

 

総ての問題が一元的に処理できるわけではありません。しかし複数の問題を示したとしても、最終的に優先度の高いところにフォーカスを当てることは重要です。

テキストがあるような場合は複数の問題に着手しても、テキストがメルクマールとなってくれますが、普段の検討でそんな指標があるわけありません。

そんな中で色んなことをお話ししても、聞く側は混乱するだけです。

 

先のパートでもちらっと触れましたが、「簡潔」であることは大切です。

簡潔にまとめられないことは、自分でもわかっていない(論理を飛躍させたり、違う論理が混ざっていたりなど)とか、両者のキャパシティに対して量が多すぎる、とかいうことになります。

 

この辺は、「要約して話すこと」を普段からどこかでやっていないと難しいかも知れませんが、やれるだけで人からの評価ががらっと変わるところです。

(※本来この辺を義務教育レベルで身につけさせる教育システムになって欲しいなぁ、と筆者は思うところです)

 

 

結語

 

改めてまとめを再掲します。

 

 

①「元々の意図」と「現在の評価」を確認し、問題点を抽出する

②優先順位をつけて根っこの問題に着手する

③最後に簡潔にまとめられるようにする

 

 

特に①の「意図」と「評価」の双方をきっちり確認する人はあまり見かけたことがありません(本来基本とすべきことだと思うのですが)。

「意図」につられて、「意図通りにするにはどうする?」というお話に帰着させ、「評価」を蔑ろにしてしまっているパターンを数多く見かけます。

非常に勿体ないことです。

 

今回筆者が提示した手法が「絶対的正解」というわけではありませんが、貴方自身の手法を見直すきっかけになれば、筆者として幸いです。